ボクサーの必殺パンチ
漫画やゲームの必殺パンチは、実在のボクサーが使ったパンチや参考にしたものが多く存在します。
今回は、そうした必殺パンチを使ったボクサー達を紹介致します。
クロスカウンター
ユーリ・アルバチャコフ
元WBC世界フライ級王者
アジア系ロシア人のユーリ・アルバチャコフは、名トレーナージミン・アレクサンドルの科学的トレーニングの元で、テクニックを磨き、アマチュア時代に世界大会で優勝しました。(ジミントレーナーは、レニングラード体育大学に進みボクシングのみならず、医学、心理学、栄養学、運動生理学の知識も身につけ、「ボクシングは頭でやるもの」という持論をもっております)
アントニオ猪木の橋渡しで、日本のジムからプロ入りし、世界チャンピオンになるのに、2年半も要しなかった。
ユーリのパンチは、左ジャブ、右ストレート、左フックとどれもがシャープで素晴らしかったのですが、白眉だったのは相手の左パンチにあわせて放つ右のクロスカウンターが一撃必殺の破壊力を持っており、芸術的でもありました。
クロスカウンターは、ボクシングのカウンター技の一種で、相手の左ジャブに対し右ストレート(又は右フック)をクロスするように放つ一撃必殺のパンチ。漫画「あしたのジョー」の主人公の矢吹丈の必殺技として、日本では有名になったパンチです。
日本でもクロスカウンターを何度か披露しましたが、とりわけWBC世界王者ムアンチャイに挑戦した時に、王者に放ったクロスカウンターのあまりの切れ味に観客達は騒然となりました。
フリッカージャブとチョッピングライト
トーマス・ハーンズ
元世界5階級制覇王者
身長185cm、2m以上のリーチの中量級選手としては非常に恵まれた体格を生かし、左腕をだらりと下げたデトロイトスタイル(ヒットマンスタイルとも呼ばれる)から放つフリッカージャブと正確な強打、マシンガンのように繰り出すラッシュで1980年代のボクシング・シーンを席巻しました。
フリッカージャブとは、左腕(サウスポーの場合は右腕)をだらりと下げた「デトロイトスタイル(別称:ヒットマンスタイル)」から、腕全体をムチのようにしならせてスナップを効かせて斜め下から打ち込むジャブであります。
フリッカージャブは、ハーンズの他にも使い手がいましたが、ハーンズはどのボクサーより破壊力やスピードに長けており、フリッカージャブブと言えばハーンズだというほど、使いこなししておりました。
ハーンズのフリッカージャブは、左腕をダラリと下げてユラユラ揺らせ(いつ放たれるかわからないようにしていた)、不規則な軌道で放ち、かつ威力が凄かったので、命中率が非常に高かったパンチでした。(防御できたとしても、ガードするのが精いっぱいで距離を縮めることができない)
フリッカージャブで相手を釘刺しにし、チョッピングライト(打ちおろしの右ストレート)で止めを刺すスタイルは、漫画「はじめの一歩」の真柴に受け継がれました。
ジョルト
ファン・マヌエル・マルケス
元世界4階級制覇王者
マニー・パッキャオの終生のライバルファン・マヌエル・マルケスは、カウンターの名人でした。
マルケスは、8歳で元プロボクサーの父親からボクシングを習い始め、12歳の時から名匠イグナシオ・ベリスタインに師事するようになり、デビュー当時から高いカウンターの技術を誇りました。
そして、終生のライバルのマニー・パッキャオと4度戦ったのですが、パッキャオの高速パンチに対し、必殺パンチジョルトを炸裂させる機会を虎視眈々と狙いながら、名匠ベリスタインの元で反復練習で必殺ジョルトの精度を上げていました。
ジョルトとは、パンチの軽さを克服するために編み出したカウンターで、全身を叩き付けるように打つ為、通常のカウンターより凄まじい破壊力を生む、正に一撃必殺のパンチなのです。(漫画「はじめの一歩」で、宮田一郎がタイ人のジミー・シスファーに起死回生の一発で使ったパンチ)
マルケスが準備をしていたジョルトがヒットする時が、遂に来ました。それは、マニー・パッキャオとの最後の決闘(4度目の戦い)の第6ラウンドでした。
お互いにダウンを奪い合う激しい展開の中で、マルケスのジョルトがダイナマイト(マルケスの異名)並に爆発し、パッキャオは前のめりに倒れ、失神ししばらく深い眠りにつき、ライバル対決に終止符を打ったのでした。
スマッシュ
ドノバン・ラドック
47戦40勝(30KO)6敗1分
ドノバン・ラドックの得意としていた、フックとアッパーの中間の軌道を描くパンチをスマッシュと呼ばれました。
漫画「はじめの一歩」では、千堂武士 の得意パンチでしたが、ラドックは千堂とは違いリーチが長かった(208cm)ので、実際のラドックのスマッシュは漫画以上に豪快でした。
おそらく、千堂武士やラドックに影響されて多くの日本人ボクサーや外国人ボクサーがスマッシュを模倣しようとしたと思いますが、ラドック以外の使い手を見たことがありません。
私も、大学時代ボクシングでしたので、スマッシュを練習で試しましたが、効果的に打つことができず、断念しました(泣)
ラドックはマイク・タイソンがいたため世界王者になれなかったのですが、スマッシュやパワフルなパンチで30ものKO勝利を積み重ねました。
昇竜拳
沼田義明
元WBA・WBC統一世界スーパーフェザー級王者
昇竜拳は破壊力があるパンチですが、大振りになり隙が生まれる為、なかなかお目にかかることができないのですが、なんと沼田義明さんが使いました。
沼田さんは、1962年のデビュー以来「精密機械」と呼ばれる正確な技術を駆使して、世界王座になりました。そして、世界王座の防衛戦でラウル・ロハスに滅多打ちされ、何度もダウンをしていた時に、打たれながらも相手の隙を探し、一発逆転の大技を虎視眈々と狙っていたのです。
迎えた5ラウンド、沼田さんは疲れたロハスに昇竜拳を試み、見事に炸裂させ、大逆転劇を演じました。
ガゼルパンチ
元世界ヘビー級王者
フロイド・パターソン
55勝40KO 8敗1分
フロイド・パターソンは、ヘビー級としては小柄でしたが、ピーカブー・スタイルから放たれるパンチの切れは抜群で、特に柔軟な下半身のバネを効かせた、ガゼルパンチと呼ばれる必殺ブローは強烈でKOの山を築きました。
ガゼルパンチとは、防御の際ダッキング(かがむ)し、そこから相手に向かって飛び込むのと同時に左フックを叩きつける、一撃必殺のパンチで、漫画はじめの一歩の主人公の必殺パンチのモデルになりました。
パターソンは、師のカス・ダマトの元で反復練習をし、ガゼルパンチを編み出し、アーチ・ムーアをガゼル・パンチでノックアウトし、21歳10か月で史上最年少の世界ヘビー級王者になりました。
この記録は弟弟子のマイク・タイソンが20歳4カでWBC世界ヘビー級王座を獲得して破りました。
また、弟弟子のマイク・タイソンも師のカス・ダマトの元で猛練習をし、ガゼルパンチをものにしました。
タイソンも小柄で特にヘビー級としては身長が低かったのですが、190cmを超えるレジ-・グロスやカール・ウィリアムスをガゼルパンチ一発でKOしました。
ドラゴン・フィッシュブロー
ジェームス・キンチェン
48勝933KO 敗2分
1988年11月
トーマス・ハーンズ vs ジェームス・キンチェン
WBO世界スーパーミドル級王座決定戦
5階級制覇を目論むトーマス・ハーンズが1988年11月ジェームス・キンチェンとWBO世界スーパーミドル級王座決定戦を行ったのですが、キンチェンはハーンズを相手にドラゴン・フィッシュブローを敢行しました。
漫画「はじめの一歩」のキャラクター真柴了のモデルとなったヒットマン・ハーンズは、初回から2mを超えるリーチを生かしたフリッカージャブでキンチェンを切り裂き、時にはチョッピング・ライト(右の打ち下ろし)も放ち、ペースを握りました。
キンチェンはハーンズよりリーチが20cm以上短い為、何とかして中に入ろうとするのですが、2mを超えるフリッカージャブは非常に厄介で、なかなか中に入ることができないのですが、50戦のキャリアを誇るキンチェンはボディー攻撃を織り交ぜて中に入り、ハーンズの視線を下に下げさせ、ドラゴン・フィッシュブロー(視線を下に下げさせ、外側から大きな弧を描く右フック)を炸裂させ、ヒットマンからダウンを奪ったのです。
ドラゴンフィッシュブローとは、漫画「はじめの一歩」で、木村達也が対間柴了戦の為に考えられた必殺技で、木村がペットのがペットのアロワナ(龍魚=ドラゴンフィッシュ)に餌をあげた時、アロワナが水面より高く飛び上がり餌を捕らえた姿を見て、思いついたのです。
ドラゴンフィッシュブローでダウンを奪ったキンチェンは、これまで世界タイトルに縁がなかったのですが、形勢を逆転させて一気に攻め込みました。
が、ハーンズは、流石に4階級を制覇し数々の強敵と戦っただけあり、得意のフリッカージャブで立て直し、ペースを引き戻し、キンチェンは一歩及びませんでした。
試合は2-0(115-112、114-114、114-112)の僅差判定でハーンズが勝利し、キンチェンがドラゴンフィッシュブローを披露した試合は、史上初の5階級制覇を達成した試合になりました。
カエルパンチ
輪島功一
元WBA・WBC世界スーパーウェルター級王者
漫画「はじめの一歩」の主人公・幕の内一歩と同じジムで活躍する青木勝のモデルは、元世界スーパーウェルター級王者の輪島功一さんと言われております。
実際、輪島選手は青木勝の得意技「かえる跳び」を試合中に使いました 輪島選手が初めてかえる跳びを披露したのは、世界タイトル初挑戦の試合で、中盤にさしかかる大事な場面で使ったのでした。(かえる跳びとはいきなり深くしゃがみこみ、カエルが跳びはねるようにしてパンチを打つ)
輪島選手は他にもトリッキーな動きで幻惑し、世界王者を相手に試合を優位に展開し、見事に世界王座を奪取しました。
輪島選手は「かえる跳び」等トリッキーな動きがクローズアップされますが、実際かなり強かった世界王者で、初防衛戦ではダウン経験のないチベリアを初回にKOし、防衛に成功しました。
また、2度目の防衛戦でも、身長で10cm以上、そしてリーチで30cmも上回る挑戦者を圧倒し、3Rに左フックでKOしました
加えて、柳済斗をKOしたリターンマッチでの世界王座奇跡の奪還劇は、テレビ視聴率は40%を超え、日本中が輪島選手の奇跡の奪還に大熱狂したのです。
以上、必殺パンチを使ったボクサーの紹介でした。
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