かませ犬とは?Aサイド・Bサイドの意味を解説|世界王者を苦しめた最強のかませ犬たち

ボクシングオタク

ボクシングでは「かませ犬」という言葉を耳にすることがあります。

将来を期待される有望選手が、経験豊富なボクサーを相手に勝利を重ね、戦績を作っていく――。

しかし、その裏では、勝敗以上に厳しい立場でリングに上がるボクサーたちが存在します。

今回は、AサイドとBサイドの仕組みや、かませ犬が生まれる理由、そして黒星は多くても世界王者たちを苦しめた実力者たちを紹介します。

AサイドとBサイド

ボクシングには「Aサイド」と「Bサイド」という立場があります。

Aサイドとは、世界王者や人気選手、有望株など、試合の主役となるボクサーのことです。

Aサイド側は興行の中心となるため、対戦相手・開催場所・試合日程などを決められるケースが多くなります。

そのため、タイトルマッチ以外では、リスクを避けるために下の階級のボクサーや、小柄な相手を選ぶケースも珍しくありません。

一方、Bサイドは相手に合わせる立場です。

突然試合のオファーが届き、十分な準備期間がないままリングへ上がることもあります。

さらに、自分より上の階級の選手との対戦を受けることも多く、体格面で不利な条件を飲まなければならないケースも少なくありません。

もちろん、すべての試合がそうではありません。

しかし、世界中で行われている多くの興行では、このような構図が存在し、有望選手の戦績作りに利用されることがあります。

かませ犬の作られ方(有望ボクサーの戦績の作られ方)

有望選手が世界王者へ駆け上がるまでには、多くの試合を経験します。

しかし、デビュー直後から世界トップクラスと対戦することはほとんどありません。

まずは勝利を積み重ね、自信や経験を身につけながら、ランキングを上げていきます。

そこで対戦相手として選ばれることが多いのが、戦績に黒星が多いボクサーです。

一見すると「弱い相手」に思われがちですが、実際には事情が異なります。

短期間で試合を受けたり、本来より重い階級で戦ったり、ホームリングでは判定で不利になることも珍しくありません。

そのため、実力がありながら黒星が増えてしまう選手も数多く存在します。

そんなボクサーたちは、有望選手の戦績作りに利用されることから、「かませ犬」と呼ばれることがあります。

しかし、その中には世界王者を苦しめたり、無敗のホープを倒した実力者もいました。

ここからは、そんな「最強のかませ犬」とも呼べるボクサーたちを紹介します。

かませ犬でも強かったボクサー① ダーネル・ブーン

ダーネル・ブーン 24勝(13KO)28敗6分

「かませ犬」と聞くと、弱いボクサーをイメージする人もいるかもしれません。

しかし、そのイメージを覆した男がダーネル・ブーンです。

ブーンはデビューからわずか1年半後、アテネ・オリンピック金メダリストで、後に世界王者となるアンドレ・ウォードと対戦しました。

しかも、この試合のオファーが届いたのは試合のわずか1週間前。さらに、8日前にも試合をこなしており、十分な準備期間はありませんでした。

試合は序盤からウォードが圧倒し、このまま一方的な展開になるかと思われました。

ところが終盤、ブーンが右アッパーを炸裂させると、無敗街道を突き進んでいたウォードから見事なダウンを奪います。

ウォードは判定勝ちを収めたものの、会場からはブーイングが飛び交うほどの苦戦となりました。

この試合でプロの厳しさを知ったウォードは、その後も努力を重ね、スーパーミドル級とライトヘビー級の2階級制覇を達成。32戦全勝というパーフェクトレコードでグローブを吊るしました。

一方のブーンは、その後も強敵との対戦を受け続けます。

2010年には、後に世界王者となるアドニス・スティーブンソンを豪快なKOで撃破。

さらに翌年には、アマチュア時代に128勝を挙げ、プロでも10戦全勝だったホープ、ウィリー・モンロー・ジュニアにも土をつけました。

そして、後に世界ライトヘビー級王者としてKOの山を築くセルゲイ・コバレフとも2度対戦し、初戦ではダウンを奪うなど大健闘。コバレフ陣営に強烈なインパクトを残しました。

ブーンの本来の主戦場はミドル級からライトヘビー級でした。

しかし、試合のオファーがあれば相手に合わせて体重を増やし、ときにはクルーザー級、さらには90キロを超える大型選手とも拳を交えました。

しかも、その多くは十分な準備期間もない突然のオファーでした。

このような厳しい条件でリングに上がり続けたため、戦績だけを見ると24勝28敗6分と黒星が先行しています。

しかし、その敗戦の裏には、世界王者候補や無敗のホープたちと渡り合い、ときには番狂わせまで演じてきた歴史がありました。

数々の世界王者を苦しめたダーネル・ブーン。

黒星の数だけでは決して語ることのできない、勇気と実力を兼ね備えた「最強のかませ犬」の一人だったのです。

かませ犬でも強かったボクサー② ロス・ピュリティ

ロス・ピュリティ 31勝(26KO)20敗3分

ダーネル・ブーンと並び、「最強のかませ犬」として知られるボクサーがロス・ピュリティです。

戦績だけを見ると31勝20敗3分と黒星が目立ちますが、その対戦相手を見ると世界王者や無敗の有望選手ばかりでした。

1994年には、元WBO世界ヘビー級王者トミー・モリソンと対戦します。

当時のモリソンは41勝2敗35KOという圧倒的な戦績を誇り、世界屈指のハードパンチャーとして恐れられていました。

一方のピュリティは8勝8敗と戦績こそ平凡でしたが、その多くは無敗ボクサーとの対戦であり、不利な条件の試合を数多く受けていました。

試合では2度のダウンを奪う大健闘を見せましたが、結果は引き分け。ピュリティにとって、かませ犬の立場から勝利を掴むことは決して簡単ではありませんでした。

そして1998年12月、24戦全勝のウラジミール・クリチコとの一戦が訪れます。

クリチコは後に統一世界ヘビー級王者として長期政権を築くことになる世界最高峰のボクサーでした。

誰もがクリチコの圧勝を予想していましたが、ピュリティは頑丈なガードと驚異的なスタミナで猛攻を耐え続けます。

迎えた10ラウンド、疲労したクリチコを攻め立ててダウンを奪うと、11ラウンドもラッシュを浴びせ続け、ついにクリチコ陣営が試合続行は危険と判断。セコンドがリングへ入り、まさかのTKO勝利を飾りました。

この番狂わせは世界中を驚かせ、「負け数の多いボクサーだから弱い」という評価を覆す一戦となったのです。

さらに2001年には、兄のビタリ・クリチコとも対戦しました。

弟が敗れた試合を徹底的に研究していたビタリは、ピュリティを決して過小評価せず、距離を保ちながら慎重に試合を進めました。

それでもピュリティは、クリチコ兄弟の強打を20ラウンド以上受けても一度もダウンすることなく戦い抜きます。

最後は目の上のカットによりレフェリーストップとなりましたが、その驚異的なタフネスは世界中のボクシングファンに強烈な印象を残しました。

その後もピュリティは強豪との対戦を続け、2007年に現役を引退。

31勝20敗3分という数字以上に、多くの世界王者候補を苦しめた名脇役として、今なお語り継がれています。

まとめ

ボクシングでは、戦績だけで選手の実力を判断することはできません。

Aサイドの有望選手は、試合会場や日程、対戦相手など有利な条件で試合を行えることが多い一方、Bサイドのボクサーは突然のオファーや階級差など、不利な条件を受け入れてリングに上がることがあります。

その結果、実力がありながら黒星を重ねてしまうボクサーも少なくありません。

ダーネル・ブーンやロス・ピュリティは、その代表的な存在でした。

二人は世界王者や無敗のホープたちと次々に拳を交え、ときには番狂わせを演じ、数々の名勝負を生み出しました。

派手な戦績こそ残せなかったものの、その勇気と実力は本物です。

世界王者を陰で支え、時には主役さえ食ってしまう――。

そんな「最強のかませ犬」たちがいたからこそ、ボクシングの歴史はより奥深く、魅力的なものになったのではないでしょうか。

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